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広島高等裁判所 昭和30年(ツ)8号 判決

上告人 控訴人・原告 吉田倉吉

訴訟代理人 小城戸良三

被上告人 被控訴人・被告 肥野藤信三

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙上告理由等記載の通りである。

上告理由について

民事訴訟法第百八十五条の認める自由心証主義が裁判官の専恣な判断を許容したものでないことは所論の通りであつて、証拠の取捨が経験則或は論理の法則に反してなされることは許されないものといわねばならぬ。しかしながら、ある証拠を信用するか否かの判断は、経験則或は論理の法則により合理的にのみ為し得るものとは限らず、かえつて裁判官の直観、その理論を超越した全人格的な判断に依存する場合が少くないのであるから、証拠を信用し或はこれを排斥する理由を一々記載することはほとんど不可能な場合もあるのである。同法第百九十一条は、判決に理由を記載することを要求しているけれども、証拠の取捨が裁判官の自由なる心証に任せられていること並びに証拠の取捨の理由の記載が常に必ずしも可能であるといえないということに鑑み、同条は証拠の取捨につき一々その理由を記載することを要求しているものではないと解するのを相当とする。従つて、原判決がその理由において、所論の各証言及び控訴本人の供述を単に信用し難いものとして排斥し、その信用し難い理由を説明しなかつたとしても、原判決に理由を附せない違法があるものとは言い難く、論旨は理由がない。

よつて、民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

上告代理人小城戸良三の上告理由

原判決には理由を附せない違法あるものと信ずる。

即ち原判決はその理由に於て「しかして控訴人は被控訴人が昭和二十四年二月右二筆の土地上の立木を伐採した旨主張するけれどもこの点に関する原審及び当審に於ける証人吉田貞暁の証言、原審に於ける証人西田稔の証言中「御示しの赤線で色取りした部分が被告(原告の誤記と認める)主張の二百六十一番地の十七及び十八であります」との部分、当審に於ける証人吉田恵子の証言、当審に於ける控訴本人の供述はいずれも信用し難く他に右控訴人主張事実を認めるに足る何らの資料もない」と判断している。

我が民事訴訟法が自由心証主義を採用していることはその当を得たものと言うべきであるが自由心証主義は決して裁判官に恣な判断を許したものではないのであるから裁判官が証人の証言や当事者本人の供述を信用しない場合には如何なる理由によつて之を信用し難いかを説明すべきであり之を欠くときは結局判決に理由を附せない違法があるものと言わねばならない。然らば原判決が第一審及び原審に於ける証人吉田貞暁の証言、第一審に於ける証人西田稔の証言中の一部、原審に於ける証人吉田恵子の証言、原審に於ける控訴本人の供述を如何なる理由によつて信用しないかを説明しないのは明らかに民事訴訟法第三九五条第六号の判決に理由を附せない違法があり原判決は破棄を免れないものと信ず。

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